Vol.5 千葉 隆平さん(大工棟梁)/前編

2021.11.26

一歩目二歩目

読みもの

『1歩目、2歩目の足跡』

 

さまざまな分野で活躍している大人たち。きっと一直線にまっすぐに、歩いて来た人ばかりではないはず。どうしてこの道に足を踏み入れたのか。どんな道のりを歩いて来たのか。これまでどんなきっかけや、出会いがあったのか。ふだんは中々聞けない、そんな「1歩目」「2歩目」のお話を聞いてみる企画です。

 

 

 

 

Vol.5 千葉 隆平さん(大工棟梁)/前編

 

千葉さんは、宮城県名取市にて馨香庵(けいこうあん)という大工店を営み、大工棟梁として様々な家づくりに携わっています。そんな千葉さんは大工になるまで、どんな道を歩いてきたのでしょうか。その道には、これまでどんなきっかけや、出会いがあったのでしょうか。そんな大工としての「1歩目」「2歩目」について、前編では大工という職業との出会い、そしてどのように歩み出したのか。馨香庵のショールームでそのお話を伺いました。

 

 

自分の家を自分で建てたい

 

―千葉さんは幼少期から大工という仕事に興味を持たれていたんですか。

 

いえいえ、全く!

 

―では、どんなことがきっかけで大工になり建築のお仕事に携わろうと思ったのですか。

 

中学と高校の陸上部で棒高跳びの競技をしていたのですが、高校卒業を控えた時期に体育大学と工業大学のどちらに進学しようかと考えていて。どちらかといえば、工業大学の方が手に職をつけられるし将来の役に立つかなと思って、何となく東北工業大学の建築学科に進学することに決めました。それが一番初めのきっかけですね(笑)。それでも元々、美術は得意だったんです。だから、ものづくりには学生の頃から興味があったのかもしれませんね。そして大学受験の面接では、面接官に向かって「自分の家を自分で建てたい」と志望動機を言ったのを今でも覚えています。面接官はみんな笑っていましたけれど(笑)。

 

―今日お邪魔している馨香庵のショールームは、千葉さんご自身がゼロから作られたんですよね。有言実行ですね!

 

面接の時には軽はずみに言ってしまっただけなんですけれど…最終的にはつくってしまいましたね。実はこの場所には、母方の祖父母の家があったんです。けれど僕が高校生の頃から空き家になっていて、学生時代にここで一人暮らしをしてみたり、そのうちに弟も一緒に住み始めたりして。後にその家を取り壊して、この家というか、馨香庵のショールームを建てることになるのですが、ずっとこの場所とは関わりがあります。

 

 

この日の取材は、宮城県名取市にある馨香庵の事務所兼ショールームとなっている家で行ないました。

 

 

真剣なものづくりへの思いと現実とのギャップ

 

―大学の建築学科に入学して、どんな勉強をされたんでしょうか。

 

大学1年から3年の間は建築の歴史や計画、法律、構造、材料などの基本的なところを学ぶんですが…、大学でも棒高跳びに熱中していたおかげで当時は全然学んでいなくて、必修授業だけはとりあえず出席してあとは寝ているというスタイルで(笑)。その後、4年生では設計の専門分野を選択しました。

 

―(笑)。卒業後はすぐに大工のお仕事を始められたんですか。

 

新卒で地元の工務店に就職して、現場監督を目指していたんです。営業か現場のどちらかと言えば、現場の方が僕には合っているかなと。初めは現場監督のアシスタントという形でスタートして、本社から届くマニュアルを管理したり、それを見ながら家づくりの現場で大工さんたちに指示を出す仕事でした。それがかなりハードで、朝7時から始めて夜中の2時まで仕事漬け。それが1週間続くような生活でした。

 

―そうだったんですね。体力的にも精神的にも、辛かったですよね。

 

そうなんですよ。そして、そんな生活が数年続いたある時ふと思ったんです。知識と技術があれば現場監督としての仕事自体はできるけれど、実際に自分で作ることができなければ、本当は指示を出したり現場を管理したりすることはできないんじゃないかって。何でも深く掘り下げて考えてしまう性格なんですよね。だから「まずはこの建物を作れる大工になろう」と、その工務店の大工として施工を担当する部署に異動しました。

 

―それが、千葉さんの大工としての1歩目ですね。

 

とは言っても、あくまで工務店の大工だから、プレカット(現場で施工する前に、工場などであらかじめ木材を加工すること)された材料を組むだけでした。その頃、現場管理から大工になって環境が変わったことで、大工の存在や魅力について自分なりに考えるようになって。木材に墨付けをして加工する線を引いたり、どの形状の継手がそこに合うかを考えたり。それが本来の大工の姿だと思うようになりました。けれど当時の僕が担当していた業務はただ材料を組み立てるだけで、大工の仕事どころかものづくりにすら思えなかった。大工としての基本的な技術技能を身につけたくても、工務店で働いている限りはそれができなくて、どんどんフラストレーションが溜まっていったんですよね。建物を作れるようにと現場監督から大工になったけれど、この工務店の家を建てられるようになったところで本当の大工とは言えないと感じて、入社から7年目に退職することを決めました。

 

―実際の業務と目指す大工の姿にギャップがあったのは、千葉さんがものづくりへの真剣な思いを持たれているからこそですよね。

 

今思えば、工務店や住宅メーカーにはそんな大工さんは中々いないんですけれどね。

 

 

 

 

馴染みある祖父母の土地を、新たな出発地点に

 

―勤めていた工務店を退職されてからは、何をされていたんですか。

 

大工の基本的な技術技能を学べる工務店を探してみたんですが、やっぱり中々見つからなくて。「伝統工法」と呼ばれる日本の伝統的な木組みの家づくりの文化が宮城にはあまり残っていないこともあって、伝統的な技術や技能を教えてくれるような師匠を探すのも難しかったんです。それが学べないなら大工になるのはやめようと一時は諦めようとしたんですけれど、どうしても未練があって。どこかに土地を借りて、独学で技術を習得しながら、まずは小屋なんかを建ててみようか…なんて考えていた時に、親戚から、かつて祖父母の家があったこの場所で「好きにやってみたらいいんじゃない!」と声をかけてもらったんです。

 

―そうだったんですね。

 

それならありがたくこの場所を使わせてもらって、自分の技術技能を身につける訓練をしながら、一棟の家(ショールーム)をつくってみることにしたんです。それが今から20年ほど前のことだったと思います。まずは元の家を解体しゼロの状態にして、倉庫をつくることからスタートしました。

 

―幼少期から馴染みのあるこの場所に建てる家は、どんな場所にしようと思っていたんですか。

 

ここにあった祖父母の家は、ことあるごとに親戚みんなが集まる場所だったんです。だからもう一度、みんなが集まることができる場所にしたいと思っていました。そしてつくり始めたら、近所の人や興味のある人も、誰でも集まれる場所にしたいと思い始め、その方向で進んでいきました。やっぱり、何となくこの場所には導かれているような気がするんですよね。ちょうどその時に、「馨香庵(けいこうあん)」という屋号で活動し始めました。

 

―馨香庵という屋号は、どんな意味を込めてつけられたのでしょうか。

 

もともと「馨香(けいこう)」っていう「良い香り」という意味の言葉が存在していて、この場所から素敵な良い香りが広がって、人が集まって、何か人々の生きるエネルギーが広がっていけばいいなと思って名付けました。なんて格好良いことを言ってみたけれど、たまたま漢和辞典を手に取ったときに見つけた言葉なんです(笑)。素敵な言葉だなと思って、そのまま屋号になりました。

 

 

 

 

大学卒業後に就職した工務店を退職し、馨香庵のショールームとなる家づくりをスタートさせた千葉さん。それからどんなことに取り組み、どんな人との出会いがあって大工棟梁として活躍する現在の千葉さんに至るのでしょうか。後編では、千葉さんの家づくりに対する思いをじっくりとお聞きします。(後編につづく)

 

 

千葉隆平(大工棟梁)

1974年仙台市生まれ。東北工業大学建築学科卒業後、工務店に勤める。退社後、小野寺大工店棟梁に師事、墨付け・刻み・手加工の家造りを学ぶ。2012年「大工店 馨香庵」として大工工事業を営む。

 

馨香庵

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記事を書いた人

伊藤 優果

SURUCCHAスタッフ・ライター

宮城県仙台市生まれ。大学生の頃にウェブマガジンの取材記事を執筆し、ことばを形にして人へ伝える喜びを知る。卒業後は地元の印刷会社に就職し、営業職を経験。紙や印刷技術が持つ無限の可能性に魅せられ、印刷はひとつの表現方法であると考えるようになる。現在はブライトにて、シルクスクリーン印刷所「SURUCCHA」のスタッフや、ライターとして勤務。心がけていることは「一刷入魂」。

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