Vol.3 ジュルジュ・ルオー『聖顔』

2022.01.27

絵葉書美術館

読みもの

絵葉書美術館

 

私の手元には、残りの人生では到底使いきれない程の絵葉書がある。その時々の展覧会で良いなと感じた絵の記録として購入したり、誰かに便りを出すために買ったり。そんな絵を見て感じたことを気ままに綴る「絵葉書美術館」、ここに開館です。

 

 

Vol.3 ジュルジュ・ルオー『聖顔』

 

私が初めてルオーの絵を観たのは福島県立美術館だったと思う。岩手県立美術館や諸橋美術館でも観ているから混同しているかもしれない。ただ、初めて『聖顔』を観た時の衝撃は覚えている。

 

額の中に、上半身はおろか首さえもないただ顔のみが描かれていている絵に、遠くから気づいた時はギョッとした。しかもその顔がとても穏やかで静かな印象だったので、違和感から気になりだした。近くに寄って観てみると油絵の具が厚く塗り重ねられ筆致は感情的にも思えるのに、描かれた顔はまるで雪が降る無音の夜のような静けさだった。私が宗教画と呼ばれるもので、初めて心惹かれた作品だったと思う。描かれたその人はキリストだった。

 

ルオーは1871年、パリで家具職人の子として生まれた。ルオーの家族が住んでいた地区は、当時は場末の労働者街であった。ルオーは14歳の時に父のすすめでステンドグラス職人に弟子入りする。修業のかたわら装飾美術学校の夜学に通い、その後本格的に絵を学ぶため国立美術学校に入学する。そこで生涯の師となるギュスターヴ・モローや親友マティスと出逢い、才能を解き放っていく。ルオーはキリストを題材としたものを描きつつ、「娼婦」「道化師」「裁判官」なども生涯を通して主題とした。いずれも不正義な社会の醜さや、そこで生きる人間の苦悩、悲哀といった内面世界に目を向けている。自分は深く信じる神を持たないが深い信仰を持つ人の眼を通した世界を、絵を観て想像することができる。その事に感動していたのだと思う。ルオーの絵が好きになった。

 

ルオーは、苦境にある人々へずっと優しい眼差しを向け続けた。悲しみを背負った人々の内なる輝きを画面を貫く光で表し、逆に、弱者から搾取するようなたぐいの性根が腐った人々を内面が投影されたかのような澱んだ世界の中に描いた。ルオーの黒く太い輪郭線と鮮やかな色彩、そして透き通るような印象を与える油絵がとても好き。それは図工の時間に体験したステンドグラスや教会の窓ガラスを思わせるからだと今回気付いた。これからも何度も何時も観にいきたい画家の1人。自分の心境いかんで、きっと違う印象を与えてくれる絵だとわかっている。

 

 

 

 


 

 

パナソニック汐留美術館

東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階

HP

 

福島県立美術館にも、ルオーの作品が収蔵されています。

福島県立美術館

福島市森合字西養山1番地

HP

 

記事を書いた人

黒須 若葉

CAFE MUGI 調理

宮城県角田市生まれ。これまで、数店舗の飲食店に勤務。社会人になり初めて働いたレストランで接客の楽しさを知り、自分なりのサービスを考えるようになる。飲食店は美味しい物だけでなく、接客でもお客さまに喜んでもらえることを実感し、そこに力を入れて働いてきた。また、人と人を繋ぐ役割も担える事を知り、できる限り良い縁を結べるように努めることもこの仕事の楽しさの一つだと思っている。現在はCAFE mugiでカフェ業務全般を担当。好きなものは、美味しいもの、本、絵。普段は本を読みながらのんびりしたり、お昼寝をしたり。観たい絵があれば日本中、ときには世界を移動して会いに行く。

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