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Vol.5 佐伯祐三『酒場(オー・カーヴ・ブルー)』|読みもの|それいけイチトニ編集室

Vol.5 佐伯祐三『酒場(オー・カーヴ・ブルー)』

2022.05.20

絵葉書美術館

読みもの

絵葉書美術館

 

私の手元には、残りの人生では到底使いきれない程の絵葉書がある。その時々の展覧会で良いなと感じた絵の記録として購入したり、誰かに便りを出すために買ったり。そんな絵を見て感じたことを気ままに綴る「絵葉書美術館」、ここに開館です。

 

 

Vol.5 佐伯祐三『酒場(オー・カーヴ・ブルー)』

 

佐伯祐三に興味を持ったのは、ほんの些細なきっかけだった。誕生日が同日だというそんな単純な理由だ。

 

でも、佐伯祐三という人の人生を知るにつれ、絵を間近で観るにつれ、絵の持つ吸引力にどんどんのまれていった。佐伯はパリにこだわった画家だが、それは風景の一部を成す石の建造物にあったのだろう。重厚な画面にはその場に蓄積された、時の流れを感じるようだ。まるで石に長い年月が染み込み、建物が時間を記憶しているかのような印象を与える。その静かな物哀しい風景に、佐伯の孤独と絵に向かう純粋性をみたような気がする。

 

佐伯祐三は、30年という短い生涯を火花を散らすように生きた鬼才であった。フランス滞在中に、自信作を携えて訪れた画家ブラマンク邸で「このアカデミックめ!」と一喝され、そこから自分だけの絵を模索する日々が始まる。持病の結核があったにも関わらず、雨の日も真冬の凍えるような日もフランスの外の景観を描き続けた。

 

この執念の絵に呼応して、佐伯の作品を多く蒐集したのは山本發次郎という実業家であった。佐伯作品だけで150点も収蔵していたという。ただ悪いことにこの人が生きた時代は戦時中であった。美術品の蒐集など時勢に反して閑事業だと周囲はまゆをひそめた。それでも山本は、”美術品の蒐集は、永遠的の文化事業であると信じてやっています”という言葉を残したように、諦める事なく蒐集品を守り続けた。佐伯の作品をたくさんの人に観てもらうため美術館建設を構想していたのだが、作品を空襲のない場所へ移動させるだけでも手一杯の時代であった。それでもなんとか蒐集品の1/3は疎開させ焼失を免れた。山本は、佐伯の絵を伝導するために生まれてきた、と語る程に佐伯に惚れ込んでいた。

 

山本はこうも言っていた。”結局は絵の鑑賞は好悪であって、好悪に理屈は無い。”全くの同感である。絵を好きになる時の原因の一つは、描いた人の込めたものを自分がキャッチした時、キャッチ出来そうだと感じた時に起こる現象だという気がしている。

 

この残った作品群は遺族によって大阪市に寄贈された。その後、様々な人が寄贈や寄託をし続けて、大阪市には美術品が多数集まり新美術館建設の機運が高まっていく。

 

そして時を経て、今年2022年2月2日。大阪中之島美術館が開館した。山本が佐伯作品の蒐集を始めてから90年という歳月を経て、たくさんの人の願いが実を結んだ。

 

改めて絵葉書の裏を観てみると、[大阪市立近代美術館建設準備室蔵]と書かれていた。ジーンときた。これはとうとう大阪まで、佐伯祐三さんの絵を観に行く準備を始めなければならない。

 

 

 

 


 

 

宇都宮美術館『佐伯祐三とパリ』展(2014.9.7〜11.3開催)

栃木県宇都宮市長岡町1077

HP

 

大阪中之島美術館

大阪府大阪市北区中之島4-3-1

HP

記事を書いた人

黒須 若葉

CAFE MUGI 調理

宮城県角田市生まれ。これまで、数店舗の飲食店に勤務。社会人になり初めて働いたレストランで接客の楽しさを知り、自分なりのサービスを考えるようになる。飲食店は美味しい物だけでなく、接客でもお客さまに喜んでもらえることを実感し、そこに力を入れて働いてきた。また、人と人を繋ぐ役割も担える事を知り、できる限り良い縁を結べるように努めることもこの仕事の楽しさの一つだと思っている。現在はCAFE mugiでカフェ業務全般を担当。好きなものは、美味しいもの、本、絵。普段は本を読みながらのんびりしたり、お昼寝をしたり。観たい絵があれば日本中、ときには世界を移動して会いに行く。

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