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Vol.4 川上 謙さん(建築家)/後編|読みもの|それいけイチトニ編集室

Vol.4 川上 謙さん(建築家)/後編

2021.11.12

一歩目二歩目

読みもの

『1歩目、2歩目の足跡』

 

さまざまな分野で活躍している大人たち。きっと一直線にまっすぐに、歩いて来た人ばかりではないはず。どうしてこの道に足を踏み入れたのか。どんな道のりを歩いて来たのか。これまでどんなきっかけや、出会いがあったのか。ふだんは中々聞けない、そんな「1歩目」「2歩目」のお話を聞いてみる企画です。

 

 

 

Vol.4 川上 謙さん(建築家)/後編

 

建築家の川上さんは、仙台や東北を拠点に主にマンションや戸建ての住宅や店舗のリノベーション設計をされています。建築の仕事に就くまで、そしてこれまで東北にリノベーションを普及させるまで、どんな道を歩まれてきたのでしょうか。その道にはこれまでどんなきっかけや、出会いがあったのでしょうか。そんな建築家としての1歩目、2歩目について、お話を聞いてみました。後編では社会人になってからのこと、独立して現在に至るまでのこと、そして家づくりのこだわりについてお話をお聞きしました。

 

 

地道な努⼒で普及させたリノベーション

 

―東北芸術工科大学(以下、芸工大)の大学院を卒業された後は、リノベーションを専門にした会社に勤められたんですか?

 

卒業後は東北ではなく大阪の設計事務所に勤めようと考えていたのですが、ちょうどそのタイミングで東日本大震災がありました。倒壊している建物が多くインフラも通常通りではない状態だったし、家族や友人の多くが宮城、仙台にいて、多かれ少なかれ被害に遭っていたので、そんな状況を放っておけるわけもなくて。仙台に移り、とにかく自分が復旧の現場に立ちたくて、地場ビルダー*に入社しました。

*地域に根ざし、設計提案を行う工務店の事

 

―そうだったのですね。震災直後となると、きっとリノベーションどころではなかったですよね。

 

本当にそれどころじゃなくって、都市や建物をいかに復旧させるかに力を注いでいました。建物の早急な復旧、補修の対応で休みなく走り回っていたように思います。忙しいことに加えて震災直後は資材が入らなかったり、職人さんも多忙で手配が出来なかったりと、とても苦労したんです。けれど、そのおかげで現場の空気を肌感覚で感じることや職人さんの手仕事を学ぶことができたし、段取りを覚えることでより現場の魅力を伝えられるクラフト感のある設計ができるようになっていったと思いますね。

 

―本当に大変な経験をされたのですね。そこからどのように、リノベーションの仕事に関わるようになったのでしょうか。

 

その会社では震災後の建物の復旧を目指し、ちょうどリフォーム事業に力を入れ始めた時だったんです。けれど大学時代に取り組んだリノベーションの意味や魅力を感じていたので、震災復興が少しずつ進んでいく中で、せっかく直すならもっと魅力的な空間をつくりたいと思っていて。当時の社長やスタッフさんと協議しながら、自ら率先してリノベ事業を1から開拓していきました。

 

けれど、当時は中々すんなりと受け入れてもらえなかったんですよね。今でこそリノベーションってすごく当たり前になったし、みんなが知る言葉になったけれど、当時は一般の方はもちろん、業者さんや職人さん、社員さんからしても「何それ」みたいな。「リフォームとリノベーション何が違うの?」とか「なんでそんなにお金かかるの?」って言われることも多くて。だから、そこをいかに普及させていくかを考えながら取り組んでいました。例えば、リフォームを依頼してくださったお客さんに対して、「この部分はただきれいにするのではなく、傷も一つの味わいとして生かしてみませんか?」とか「躯体(建物の骨組み部分)を現した方が天井の高さが確保できてより魅力的ですよ」と提案してみたりとか。本当に地道なんですけど、そういうことを丁寧に取り組んで事例を増やしてきたことで、少しずつ仙台や東北にもリノベーションが普及してきたと感じています。

 

 

 

 

生活や暮らしを記録する「LIFE RECORD ARCHITECTS

 

―地道な提案の積み重ねでリノベーションを普及させていったんですね。チャレンジしていく姿勢が素敵です。川上さんは地場ビルダーに勤務された後に独立されたとお聞きしましたが、どんな経緯があったんでしょうか。

 

建築家として独立するには当時はまだ年齢的にも若かかったこともあり、その時は独立しようとは考えていなくて、色々とつながりが生まれた仙台で、リノベーションを専門で行なっている設計事務所への転職を考えていました。でも、そういう設計事務所が仙台、宮城にはなかったんですよね。それで「無いなら作ってしまおう!」みたいな勢いで…。不安はありましたけど、失敗してもどうにかなるか!みたいな気持ちで思い切って独立することを決めました。

 

―そうだったんですね!「LIFE RECORD ARCHITECTS」という会社名も素敵で、実は由来が気になっていました。

 

今や僕のバイブルになっている、学生の頃に出会った多木浩二さんの『生きられた家』という本があるのですが、そこに《「生きられた家」とは、居住した人間の経験が織り込まれている時空間である。》と書かれていて、そのことに強く感動したのを覚えています。その影響もあって、リノベーションする時には、その場所の持つ「時間」を大切にしながら設計するように心掛けているので、会社名に「生活や暮らしを記録する、記憶に残す」という意味で「LIFE RECORD」と名付けました。あとは、その頭文字をとると「LR」なんですが、それにはLEFTとRIGHTっていう意味合いもあって。スピーカーの右左みたいに声や想いが広がっていくイメージになればいいなと思ってこの名前に決めました。

 

―思いがたくさん詰まった会社名なんですね。独立されてから7年目とのことですが、川上さんが仕事をする上で大切にしていることや、好きな瞬間はどんな時ですか。

 

最も大切にしていることは、自分よがりにならずに、できる限りお客さんに寄り添って、お客さんが求めている事を引き出すことですね。自分のスタイルが無い訳ではないのですが、それはあまり意識していなくて、お客さんの「好き」や「想い」を汲み取ることが出来たら、それこそ様々な建物や空間が生まれてくるんじゃないかと考えています。好きな瞬間は、やっぱり竣工した時にお客さんに喜んでもらえる瞬間ですね。そして建物は人が入って活用されることでやっとスタートだと思っているので、暮らし始めたり、活用されるようになってからよりその人の色に染まっていく様子を感じられる時も本当に幸せで、やっていてよかったと心から思います。ずっと長く愛される場所になってもらうことが一番の望みですね。

 

 

こだわりの詰まった自宅設計

 

―それから、今日の取材では川上さんのご自宅にお邪魔しているのですが、川上さんご自身で設計されたそうですね。せっかくなので設計された上でのこだわりを教えていただけますか。

 

こだわったポイントはいくつかあるのですが、もともとここは自宅兼事務所として建築したので、家族の時間である生活スペースと仕事の時間であるパブリックスペースの分け方は意識しています。例えば僕が仕事をしていても家族が気を遣わず不自由しないようなつくりになっていたり、時間帯によってリビングやキッチンの使い分けができるようになっています。暮らしの部分では自分たちの生活を見直して、必要なものと要らないものを徹底的に分析してみました。例えばこの家には寝室という個室はなくて、畳の部屋に布団を敷いて寝ています。そのおかげで、布団を仕舞えば畳の部屋までリビングになって部屋が広くなるし、段差もなくしているので子どもが自由に歩き回れる子育てしやすい部屋になりました。決まった「部屋」という概念を無くして、建具の開閉や暮らしの道具の置き方次第で常に間取りが変化していくような家を目指して計画しました。

 

 

撮影:Kohei Shikama

 

これまで多くのお客様の家を設計してきて、良い部分やもっとこうすればよかったことなど多くのことを学ばせていただきました。「ベッドを置いても子供が落ちるから結局床に布団を敷いて寝ている」とか「ソファを置いても結局床でくつろいじゃう」、「テレビは見るけどテレビに間取りを左右されたくない」など、意外と当たり前に必要だと思っていたことを見直してみると私たちにはいらなかったり、不都合なことがあったりしたんです。私たちに限らずお客さまの家を設計させていただく時には、その人にとって最良の間取りや暮らしを実現できるように考慮したいと思っているので、それを感じていただく場所になったらいいなと思っています。

 

もう一つの大きなこだわりは、断熱性能を高めたことです。お客さまへリノベーションを提案すると「耐震性は大丈夫なのか」「断熱性能は劣るのではないか」などと、必ずと言っていいほど新築と比較されることが多いので、僕たちは「新築を超えるリノベーション」を提案できるようにチャレンジしています。この家の性能は今建築されている新築分譲マンションよりもずっと高い基準を設けて断熱しました。そのおかげで冬は暖房をほとんど使わなくても家の中で暖かく過ごすことができますし、夏の冷房も最低限で済むんです。家の中の温度が年間通してある程度一定に保たれていることは身体への負担も少なく、本当に健康的であることを実際に住まうことで改めて体感し、さらに日々のランニングコストを抑えることができるので家計にも優しくメリットしかありません。

 

大学の恩師が竹内昌義教授なのですが、僕が在学中にちょうど山形にエコハウスを建てるプロジェクトが発足しました。その時にカーボンニュートラルで持続可能な暮らしを実現していくことを目指し、当時最高の断熱レベルを誇る住宅の設計に関わらせていただくことが出来ました。竹内先生はエコハウスを通して世界のエネルギーの問題や、人々を健康にすること、そして地域社会の経済循環の流れをつくりだすといった社会課題まで解決したいと考えています。先生から学びを受けた者としてその意思を受け継いでいきたい想いもあったので自邸に限らず、これからの家づくりはできる限り性能を高めて、環境や社会に貢献できるような建築を進めていきたいと考えています。最近では日本でも省エネに力を入れた建物が求められるようになり、様々な基準や数値が決められてはいるのですが、実際にその数値が体感としてどの程度のものなのかを知るには自ら体感し、そして一般の方にも感じていただけるようにと思い住宅や店舗を検討されている人の体感型ショールームとしても時々この場所を活用しています。この場所が出来たことにより言葉よりも体験していただくことでより断熱の大切さや設計による心地良さをお伝えしやすくなったと感じています。

 

 

川上さんのご自宅のお写真は、こちらからご覧いただけます。

 

 

―この空間には、工夫やこだわりがたくさん詰まっているんですね。それではインタビューの最後に、これから挑戦してみたい事や挑戦したいことなどを教えてください。

 

これまでお答えしたリノベーションの普及や断熱性能の高い建物を増やしていくことを継続していくことは前提としてあります。また最近では、あらゆる分野の仕事仲間や社内スタッフ、アルバイト、インターン生などたくさんの人と関わり、協力しながら建築、ものづくりできる環境が整いつつあります。チームで一つのものを作り上げていく事の楽しさや、一人では思いつかないような新しい発見を共有できることに大きな魅力を感じるようになりました。これからは僕たちに関わっていただく人や空間が豊かになっていけるように魅力的なチームビルディングに興味があります。素敵なチームメイトと一緒に建築、ものづくり、そしてまちづくりに積極的に携わり、生き生きとした豊かな街を作る一員として機能していきたいと考えています。

子供のころ夢見た孫悟空のように地球を救う最強のヒーローとまではいきませんが、元気玉のように多くの人の声やバイタリティを集めて周りの環境が少しずつ良い方向に導けると良いなと思っています(笑)。

 

 

川上 謙(建築家)

神奈川県相模原市生まれ。栃木県宇都宮市育ち。東北芸術工科大学院 環境デザイン領域卒業後に宮城県仙台市に在住。設計工務店に勤め、数々の住宅や店舗等の設計施工に携わる。2015LIFE RECORD ARCHITECTS 設立。

 

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