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Vol.7 ベン・シャーン『一篇の詩の最初の言葉』|読みもの|それいけイチトニ編集室

Vol.7 ベン・シャーン『一篇の詩の最初の言葉』

2022.09.23

絵葉書美術館

読みもの

絵葉書美術館

 

私の手元には、残りの人生では到底使いきれない程の絵葉書がある。その時々の展覧会で良いなと感じた絵の記録として購入したり、誰かに便りを出すために買ったり。そんな絵を見て感じたことを気ままに綴る「絵葉書美術館」、ここに開館です。

 

 

Vol.7 ベン・シャーン『一篇の詩の最初の言葉』

 

私は、手の素描が好きだ。表情が無くても、その手の持ち主の気持ちが汲み取れる気がするからだ。優しい気配や、怒りの感情、別れを惜しみ精一杯相手の安全を祈る気持ち…など。

 

この絵葉書の手は、まさにこれから何篇も詩を編み出していく、その最初の書き出しの手だ。つまり、まだ何も書けていない手だ。そう想像すると手の持ち主の煩悶や決意が滲み出ているように思え、魅力的に観えてくる。

 

初めてベン・シャーンの絵を観た時はショックを受けた。福島県立美術館の収蔵名品展だったように記憶している。病室のベットに、日焼けした男性がポツンと座っている。その絵には英文で”私は漁師です。名前は久保山愛吉です。1954年3月1日にビキニ環礁でアメリカの水爆実験で被爆しました…”というような内容が記されていた。タイトルの『ラッキードラゴン』とは第五福竜丸という船名の事だった。

 

『ラッキードラゴン』の衝撃からベン・シャーンに興味を持つのだが、その後何度か展覧会に足を運び、絵の美しさにすぐに魅了された。色がキレイな作品やデザインとして魅力的な作品も多く、レコードのジャケットのために描かれた絵は純粋に素敵だ。力強く太い輪郭線の絵は、訴えかけてくるものが強く、声高いメッセージを発し息苦しさを感じさせるものもあった。それでもベン・シャーンの絵や写真から溢れでてくるものは、懸命に生きる人々への慈愛だ。

 

ベン・シャーンは、1898年にロシア帝国内のユダヤ人強制集住地域に生まれる。父は木彫職人、母は陶工であった。その父がロシアの独裁政治に反対し革命運動に加わった事や、ユダヤ人への迫害を逃れるためシャーンが7歳の時に一家は渡米する。貧しい暮らしの中、中学卒業とともにリトグラフ工房で石板工の見習いとなった。その間、夜間学校や大学の夜間クラスに通い、絵の勉強と人としての教養を学んだ。様々な画法を習得したが、石に刻むような力強い線をずっと手放さず、表現方法の一つとして大事にしていた。シャーンは一貫して人種差別やそれによる冤罪事件をテーマとした社会の不正義、不平等を告発するような作品を描いている。

 

“I am a human artist.”

“私は人間の芸術家、人間の絵描きです”

 

人々の、言葉に出来ない怒りや悲しみに、形を与え表現することこそが芸術家がやるべき事だと考え、生涯懸けて取り組んだ。

 

くしくも『ラッキードラゴン』は福島県立美術館の収蔵品の一つで、2011年の福島第一原発事故との因縁を思わせる。あの山を後ろにたたえた、緑多い福島県立美術館に、久々に足を運びたい気持ちになる。

 

 

 

 


 

 

福島県立美術館

福島市森合字西養山1番地

HP

 

記事を書いた人

黒須 若葉

CAFE MUGI 調理

宮城県角田市生まれ。これまで、数店舗の飲食店に勤務。社会人になり初めて働いたレストランで接客の楽しさを知り、自分なりのサービスを考えるようになる。飲食店は美味しい物だけでなく、接客でもお客さまに喜んでもらえることを実感し、そこに力を入れて働いてきた。また、人と人を繋ぐ役割も担える事を知り、できる限り良い縁を結べるように努めることもこの仕事の楽しさの一つだと思っている。現在はCAFE mugiでカフェ業務全般を担当。好きなものは、美味しいもの、本、絵。普段は本を読みながらのんびりしたり、お昼寝をしたり。観たい絵があれば日本中、ときには世界を移動して会いに行く。

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